公開監査

公開監査レポート

気概にあふれた生産者たち

栃木おいしい会

2006年11月15日~16日

 いちごの花が咲き、ハウスの中をみつばちが飛び交う10月14日(金)、栃木県のいちごの産地、栃木おいしい会※1にて公開監査が開催されました。公開監査とは産地の品質管理の仕組みを参加者のみなさんで確認すると同時に、産地のかかえる課題や消費者の思いを率直に出し合う場でもあります。約50人の参加者※2が見守る中、栃木おいしい会では生産者と彼らを支える事務局が二人三脚で品質のよい「おいしい」いちご作りに努力していることがわかりました。まさしく一粒のいちごの中には生産者の努力が詰まっているのです。

※1 栃木おいしい会…いちご専業農家のグループで、5年前に取引が始まりました。
※2 参加者内訳…東都生協組合員:20人、役職員:5人、他産地:5人、栃木おいしい会:17人、その他:5人

いちごのハウスを視察

スケジュール概要
2005年10月15日(木)

【監査人による事前監査】

監査人による栽培状況の視察

10:30 生産者圃場・倉庫視察
  • 監査人により2人の生産者のいちごのハウスと倉庫などを視察

監査人…今回は専門家1人、他の産地から1人、東都生協組合員2人、東都生協職員2人の計6人

13:00 昼食・移動
14:20 事務所での事前監査
  • 産地からの説明を聞いた後、質疑、文書確認など。
20:15 終了
2005年10月14日(金)

【公開監査】

10:40 開会あいさつ(栃木おいしい会、東都生協)
11:05 産地からの説明
  • 資料に沿って産地の取り組みを説明
12:00 昼食交流
  • 昼食を食べながらの交流
13:00 事前監査報告・質疑
  • 監査人からの事前監査報告
  • 監査人および会場からの質疑
14:40 まとめ
  • 監査人、栃木おいしい会、東都生協からのまとめ
15:00 移動・圃場視察
  • 生産者のいちごのハウスを視察
16:45 終了
日本一のいちごの産地 ─ 気概にあふれた意欲的な生産者たち ─

 いちごといえば栃木県ですが、そのわけは那須山系を背後に降雨量が少なく、南に面して関東平野が開けて、年間を通じて日照量が多いことがあげられます。さらに比較的大きな台風災害が少ないためハウス栽培に恵まれたことも要因の一つです。その中で会の名前の通り、おいしく、自分の子どもに安心して食べさせられるいちごを作ろうと立ち上がった生産者のグループです。また次世代に引き継げる農業経営であることも重視し、地域の中でも気概にあふれた意欲的な生産者たちが集まりました。

いちごの栽培は一年半 ─ 冬に実のなる不思議 ─

 いちご栽培は苗を育てることから始まります。いちごは種(たね)を植えて育てるのではなく、親株から増やします。親株から茎が伸び(これをランナーという)、少しはなれたところに根を下ろし、子株として成長します。その子株からさらにランナーが伸び、どんどん増えていくのです。この苗を育てる作業は、ちょうどいちごを収穫している時期に行います。
いちごは一定の低温に遭遇しないと開花・結実しません。冬に収穫するためには季節を勘違いさせる必要があり、人為的に苗を低温処理(休眠打破)します。以前は山上げといって、冷涼な山の上で育苗をしていたのですが、今では、冷蔵施設を利用することが多くなっています。7月~8月ごろ、昼間は外に出しておいた苗を、夕方早くに暗い冷蔵施設の中に入れるのです。
一方、いちごのハウスでは、収穫が終了した後、夏に太陽熱や薬剤による土壌消毒を行い、肥料を施し、苗を植えるための準備をします。そうして8月~9月に植えつけられた苗は、11~12月ごろに収穫が始まります。それから半年間は収穫作業に追われ、休む間もなく作業が続くのです 。

高い管理レベル ─ さらなるレベルアップを ─

 栃木おいしい会では、毎年、栽培基準を守ることをはじめとした、さまざまな約束事が明記された確認書を生産者と取り交わしています。会では各生産者が約束どおりの栽培をしていることを生産者の作業記録によって確認をし、さらに残留農薬分析を行うことで間違いないことを確かめています。
監査人からは、右肩上がりで伸びていく中で、生産者の拡大が今後も進むことが予想されることから、常に仕組みを見直していく必要があるとの指摘もありました。そのことは生産者を縛るものではなく、間違いを防いだり、問題が起きた際にすばやい対応をしたりする上で必要となるのです。またそれは、取引先を拡大する際のアピールにもなります 。

生産者と事務局の二人三脚 ─ 科学的な視点で栽培指導 ─

会場では産地の文書を閲覧できます

 栃木おいしい会には生産者を支える事務局体制があります。いちごの収穫時期になると毎月、生産者のところに足を運び、土壌分析や生体分析を行い、科学的なデータに基づいた適切なアドバイスを行っています。これは、いちごの品質向上につながるだけでなく、過剰に肥料を与えることを防ぐことで、環境保全にもなっているのです。環境への影響ではとかく農薬が注目されがちでが、肥料も環境に与える影響は少なくありません。必要以上に施肥することで過剰になった窒素分が地下水を汚染してしまうのです。勘に頼った栽培ではなく、科学的な分析による指導が栃木おいしい会の生産者全体をレベルアップしています。

品質をよくするための資材 ─ 有機質中心の肥料で「わかば」 ─

 使用する肥料は有機質中心で、ここのいちごは東都生協の栽培区分である「わかば」となっています。肥料以外には品質をよくするための資材がいろいろ使われており、中でもステビアの使用が特徴的です。ステビアはキク科の植物で、その抽出物は甘味料として利用されていますが、最近注目されているのは抗酸化作用などの効果です。事実、ステビアを土に混ぜたり、葉面散布することで糖度(甘さ)が増したり、作物の日持ちが良くなったりするそうです。日持ちが良くなるということは、収穫から消費者に届くまでに傷まないよう、早めに収穫していたものを、十分赤くなってから収穫できるようになります。

わかば…東都生協の自主基準に基づく栽培区分のひとつで、地域の一般的な栽培と比較して、化学合成農薬もしくは化学肥料の使用を半分以下に減らしている農産物です。
生産者を2グループに分けて管理 ─ 栽培基準と区分管理 ─

参加者も質問をして自ら確かめます

 栃木おいしい会は、基本的に農薬や化学肥料を減らした栽培を心がけていますが、土壌消毒を太陽熱で行っており(一部もしくは全部)、東都生協ができるだけ使用してほしくない農薬を使わない生産者のAグループと、農薬の使用基準が緩やかなBグループに分けています。東都生協にはAグループの生産者のいちごのみ出荷されることになっており、監査人による事前監査ではそのことについて、伝票上で間違いないことを確認しました。
監査人からは、より小さい単位で栽培管理や出荷管理ができれば、問題が起きた時の被害を小さくできるとの指摘がありました。もし残留農薬が出た場合でも、それを収穫したハウスが特定できれば、原因究明が迅速に行え、出荷停止などの措置が最低限で済むからです 。

参加者の声 ─ 当日のアンケートからの抜粋 ─

今回参加した方にはアンケートを書いていただきました。その中から特徴的な部分を以下に抜粋します。

公開監査の参加者の皆さん

「農薬や有機肥料、土壌管理などにこだわって、一年中忙しくいちごを育ててくださっていることが、資料やお話から確認できた。事務局の規定もはっきりしていて、栃木おいしい会の発展が期待できる」「減農薬をかかげているのだから、慣行栽培の半分を目標として努力していただきたい」「他の産地ときわだって違う、プロのサポート集団がついていることのすばらしさを痛感した」「日本の行政との間での悩む農業を考えることができた」「初めてこういった会があると知った。いろいろな新しい知識が入ってきて、驚きでいっぱい」「久しぶりの参加だったが、消費者-生産者-専門家それぞれの大きな(内容)進化、進歩が感じられた」「資料を前もって確認できたので、私にもよく理解できた。事前監査がしっかりできていて、公開監査の時間は短くても、内容が濃く、いちごのハウス見学もゆっくりできるのでよいと思う」

監査を終えて ─ 栃木おいしい会 代表 須藤紀明 ─

あいさつをする代表の須藤さん

 栃木おいしい会は他の産地に負けない組織を目指しています。そのための組織と資材の選択、生産管理、出荷管理の枠組みを構築してきたつもりでいます。しかしながら、そこにはまだまだ思いが至らぬ点が多々あると考えていました。
 公開監査を受けてみて、そのことが改めて見えてきたように思います。至らぬ点は実行できるものからできるだけ速やかに実行に移していきたいと考えます。
 例えば監査の指摘事項の中に「東都生協との約束事が生産者との間で今ひとつあいまいではないか」というのがありました。栃木おいしい会では毎年「栽培仕様及び出荷統一確認書」を生産者との間で取り交わしていますが、この指摘に対して、Aグループの確認書に東都生協の「農産物ガイド」をとじ込むことにしました。そっくりそのまま生産者との生産仕様確認とします。
 圃場ごとの農薬使用管理についても指摘を受けました。栃木おいしい会は生産者のハウスに連棟(複数のハウスをつなげたもの)が少なく単棟(単独のハウス)のために管理ハウスが多いので、ハウスごとの圃場管理記録は記録用紙の枚数も多くなり、生産者の負担が増えます。しかし、できる限り生産者の記録を手軽に行える書式を導入したいと考えています。ただ、どうしても生産者の多忙な収穫期の作業負担は多くなりますので、頭の痛むところであります。
 長期的な問題としては国際標準化機構で検討がはじまっている「農産物生産に対するISO方式の管理導入」問題があります。会の生産品がそのレベルに到達できる枠組みとなるよう努力が必要だと考えています。

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