公開監査

公開監査レポート

常にチャレンジ

(農)大矢野有機農産物供給センター

2004年9月9日~10日

 2004年9月9日から10日の2日間、みかんや河内晩柑など柑橘類でおなじみの大矢野有機農産物供給センター(以下、大矢野センター)にて公開監査を開催しました。大矢野センターの生産者、東都生協組合員・職員、他の産地の生産者など総勢約70人が見守る中、確かな農産物を生産する取り組みについて監査をしました。確かなもの生産するための仕組みや品質管理、除草への取り組みなど常に新たなことにチャレンジする大矢野センターの姿勢が見えてきました。
 大矢野町は、熊本県天草地方に位置し、青い海に緑の島々が点在する風光明媚なところです。今回はそんな大矢野の自然の風景も満喫してきました。

みかん畑の先に海が広がる大矢野の風景(大矢野センターの事務所からの眺め)

もりだくさんの2日間 ─ 公開監査スケジュール ─
2004年9月9日(木)

今回は、公開監査といった生産物の確かさを確認すること以外にも、生産現場を少しでも知ろうと、草刈体験をしたり、風光明媚な大矢野の地域を海から眺める遊覧船クルージングをしたり、盛りだくさんの2日間でした。

【1日目】

14:00 開会
  • 大矢野センターと東都生協の代表から挨拶
  • 大矢野センターの取り組み報告

以降、監査人と参加組合員は行動が異なります。

【参加組合員】

16:00 草刈体験
  • 生産現場を知るため、東都生協組合員はみかん畑で草刈を体験

【監査人】

16:00 畑の確認
  • 監査人による畑や生産者宅での監査
19:00 交流会

スライドを使って大矢野センターの概要や取り組み、こだわりについての報告がありました

ついつい熱中してしまう草刈体験。「はじめのうちは楽しかったが、暑い中草刈を延々とすることを思うと大変な作業であると感じました」とは体験した組合員の感想

監査人は生産者のお宅にうかがって、生産者が記録している栽培日誌を見ました。約束どおりに栽培されているかを確認しました。

交流会では生産者といろんな話ができました

2004年9月10日(金)

【公開監査2日目】

09:00 公開監査
  • 東都生協との約束事が守られているかについて監査人を中心とした監査をしました

監査人…専門家1人、他の産地から2人、東都生協組合員3人、同職員1人の計7人

13:30 大矢野めぐり
  • 海から大矢野のすばらしい風景を満喫

監査テーマに沿って、監査人や会場からの質疑によって産地の取り組みの確かさを確認します

山の斜面に広がるみかん畑。朝から降っていた雨も上がり、青空のもと1時間ほど天草の海から大矢野を眺めました。

確かさの仕組みづくりは産地の誇り ─ 監査人からは高い評価 ─

監査項目一つ一つについて質疑によって産地の取り組みを明らかにします

 東都生協と産地の間には、農薬の散布(農薬の種類や回数)など栽培についての約束事があります。公開監査ではその約束事が守られているかを確認するわけですが、そのために、約束事を守るための仕組みがあるのか、そしてその仕組みがきちんと機能しているか、ということを文書や聞き取りによって確かめるのです。大矢野センターの場合、各生産者が大矢野センターに栽培記録を提出し、それをセンターの職員が確認することになっています。監査の結果、それがきちんと機能していることが確認できました。さらに、出荷の際にも生産者ごとに生産物が混じらないように区分管理され、検品もきちんと行われていました。
 監査結果はおおむね良好で、監査人からはさらなるレベルアップを図るために、文書の整理や業務手順の明文化などいくつかの指摘がされました。
 大矢野センター下山専務の「産地の仕組みづくりは、言われたからしているのではなく、生産者の実力を高めるために必要なものと捕えている。農業の社会的評価を高めるためにも、それに携わる農家が質の高い人たちであるという評価を受けたい」という言葉が印象的でした。

すべての木について糖度をチェック ─ 品質管理も自信を持って ─

木に出荷の優先順位をつけ、テープで印をつけます

 品質管理について、代表的な生産物であるみかんについて確認をしました。みかんの品質では糖度と酸度のバランスが重要となります。同じ畑でも木によって味の乗り方は微妙に違うそうです。そこで大矢野センターではみかんの収穫適期(収穫に適している時期)を判断するために、収穫の1~2週間前にすべての畑の、すべてのみかんの木において糖度検査を手分けして行い、木ごとに出荷の優先順位を決めます。そして、出荷する際にはその結果を元に味の乗っている木から収穫をします。さらに、出荷時には一番おいしくなさそうなみかんをサンプリングして、糖度と酸度を測定し、基準どおりかを確かめています。
 大変手間がかかることなのですが、できるだけいい味のものを出荷したいという生産者の思いが伝わってきました。

「草で草を抑える」ナギナタガヤの活用 ─ 除草作業の省力化のために ─

手前の枯れている草がナギナタガヤ
《2004年7月撮影》

 大矢野センターでは除草(雑草を取り除くこと)のために農薬を使用せず、草刈機などで草を刈っています。しかし、みかん畑の多くは斜面で、木自体が大きくないため雑草の繁茂が早く、夏の草刈は重労働となっています。そこで、除草の手間をできるだけ省く必要があり、一部の畑では「草で草を抑える」やり方、すなわちナギナタガヤの活用を試みています。ナギナタガヤは牧草の一種ですが、雑草を抑える草として注目されています。秋に種をまき冬から春に成長するのですが、夏には枯れて倒れてしまうため雑草が生えるのを抑制してくれるのです。「ナギナタガヤが一面を覆うようになるまでの管理が難しい」「ナギナタガヤは滑りやすい」など、いくつかの課題はあるものの、除草作業にかける時間が短くなれば、その分、より品質を良くするための作業に時間を割くことができるとのことで、今後も研究は進めていくそうです。
 農薬をできるだけ使ってほしくないというのは簡単ですが、それを実現するための生産者の努力を忘れてはなりません。

台風にも負けず、輸入にも負けず ─ 農業の生き残りをかけて ─

 今回は台風18号が九州を直撃した直後にうかがいました。河内晩柑の畑を視察したのですが、多くの実が落ち、幹や枝が折れている木も少なくありませんでした。まもなく収穫という新高梨は約7割の減収、パール柑や河内晩柑などの晩柑類も甚大な被害を受けたそうです。そんな自然災害だけでなく日本の果樹生産農家は、輸入の増加などによる国産果物の消費量の減少にも悩まされています。
 農林水産省のデータによると日本におけるみかんの生産量は1970年代をピークに年々減少しています。事実、大矢野でも山を見渡すと放棄されたみかん畑が点在しています。そんな中、大矢野センターでは河内晩柑やポンカンなど他の柑橘への転換で農業経営を維持してきました。また、こだわって栽培した生産物をきちんと評価する産直取引も地域農業の継続の一助となっています。
 これまでの苦労を水の泡にしてしまう台風の直後にもかかわらず、温かく迎えてくださった生産者の生き生きとした顔が、日本の農業の明るい未来へのきざしを感じさせてくれました。

果樹の場合、被害はその年だけでは済みません。元の収穫量に戻るまで数年はかかってしまいます。

ちぎれて落ちた河内晩柑、風のすごさを物語っています

最後にみんなで「はい、チーズ」

産地からの声

 私達の組合が法人として設立して以来12年が経過しました。10年を経た時点で、それまでの到達点を見据えて新たな10年を目指すべく組織の再編を目的としたプロジェクトを立ち上げました。時を同じくして「食の安全・安心」に係わる様々な事件が社会問題として露呈し、私達もそれまでの取り組みを洗い直す切っ掛けとなりました。それから2年、数十回に及ぶ論議を経て試行錯誤を重ねながら一歩ずつ組合員の理解と認識を高める取り組みが始まりました。
 今回の公開監査を終えて感じていることは、このシステムが生産者と生活者をつなぐ上で大変重要な役割を果たしていることです。生産現場での様々な取り組みや課題を明らかにし、それを共に確認し互いの信頼を築き上げていく上では、正に絶好の機会でした。これを機に私たちの新たな課題も見えてきました。農業者としての実力を高め、東都の組合員のみなさんからも、また地元地域においても確かな信頼を築くべく、更なるチャレンジを進めます。
機会がありましたら、今度はみなさんがいらしてください。

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